濃尾平野の北部。古い街道沿いにある「円居」という築 100 年を数える町屋を利用したパン屋の敷地内、幅9m奥行 50m の典型的な鰻の寝床。その奥にひっそりと新居を建てた。
典型的な町屋沿いにあって道路沿いに面していない、奥まった敷地条件もあり、街並みの連続性をさほど意識せず、しかしながら日本的な居住まいを現代に表現しようと試みた。寡黙で雄弁、屋敷奥にある蔵のような強く安心感のある四角いプラン。大きく窓をとりつつ
断熱性、耐震性も考慮した厚い壁。長く伸ばした庇で、量感のある厚塗りの珪藻土壁を風雨から守った。コンクリートの 1 階床は温水床暖房を流すことで冷えから解放され、その強度は生活の上で気楽な付き合いの出来る信頼の床となった。なおかつ高い断熱性能により、冬は床暖房のみ、夏は 2 階に設置された小さなエアコン 1 台で家全体を冷やす。断熱、空調計画により部屋ごとの温度差は最小化され、浴室下にも埋められた床暖房配管により浴室も常に快適。家に必要な機能は家族に身の安全と心の安らぎをもたらすものであるならば、体感からそれを感じられる家となったと思う。
敷地内の石垣には近隣の川で採れた角の丸くなった多種混在の石を使い、内部扉には美濃で職人が一枚づつ漉く和紙を張った。内部壁には天然の土を塗った。1 階のダイニングキッチン、2 階には家族室と称して就寝前の家族がリラックスした時間を過ごすためのプライベートな空間を設け、クロゼットなども兼ねる使い勝手の良い場所となった。必要以上に壁を建てず、空間のつながりを大切にしておおらかでフレキシブルな空間構成を狙った。製作家具以外の食器棚やキッチンカウンターなどは古い家具を設え、新しい空間と古い家具とのマッチングを意識した。街道の街並みと同じように新旧入り混じり、なおかつそれぞれがそれぞれと呼応し、喧嘩せず互いの存在を認め合うような空間を目指した。
いくつかは設計に入る段階でチョイスし、古い家具ありきの構成になった。建築→家具ではなく、家具→建築という順序も良いのではないかと考えている。華美な装飾を避け、先祖から受け継いだ美のエッセンスを随所に利用しながら自然の素材にも力を借りて、古代より変わらぬ人間の暮らしと美へのアプローチを大切に考えた、自邸の設計及び建築であった。
photo rikiya nakamura
所在地 | 岐阜市 |
---|---|
構造 | 木造2階建て |
用途 | 専用住宅 |
敷地面積 | 302.06㎡ |
床面積 | 107.14㎡ |
担当 | 門脇 |